要旨
- 【2026-07-30更新】2026年4月8日の初版を残し、その後に確認された6月の戦闘停止をめぐる動きを追記した。公開後の出来事は本文でも更新情報として区別している。
- 両国の対立は長く、代理勢力、破壊工作、サイバー攻撃など、国家間の全面戦争を避ける「影の戦争」として続いた。
- 2024年にはイラン領内とイスラエル領内を狙う直接攻撃の応酬が起き、2025年6月にはイスラエルによるイラン核・軍事関連施設への攻撃とイランの反撃が12日間続いた。
- 2026年には米国とイスラエルによるイラン攻撃、イランによるイスラエルや湾岸諸国への攻撃へ拡大した。国連は一貫して即時停戦と外交への回帰を求めている。
- 原因を一つに絞るのは危険だ。核問題、代理勢力を介した地域対立、直接攻撃の前例、相手の抑止を信用しない先制志向が重なって公然戦争への敷居を下げた。
【2026-07-30更新】この記事は2026年4月8日に公開した。初版が整理した2024年から2026年4月初めまでの経緯は維持し、公開後に確認された6月の戦闘停止をめぐる動きだけを更新情報として追記している。
イランとイスラエルの公然戦争は、ある一日の攻撃だけで始まったわけではない。長年は、同盟・友好関係にある武装組織、秘密作戦、サイバー攻撃、海上での妨害などを介し、国家同士の全面衝突を避けながら相手の能力を削る対立が続いていた。
転換点は三つに分けると見えやすい。第一は2024年、両国が自国領から相手国を直接攻撃する前例を重ねたこと。第二は2025年6月、核・軍事関連施設を含む攻撃と報復が12日間続いたこと。第三は2026年、米国も加わった対イラン攻撃と、イランによる湾岸諸国を含む広域の反撃に発展したことだ。以下では、確認できる出来事、当事国の主張、そこから導く分析を分けて読む。
1. 確認できる事実: 2024年に「直接は攻撃しない」という線が崩れた

2024年4月、国連事務総長はダマスカスにあるイランの外交施設への攻撃と、4月13日にイランがイスラエルへ行った大規模攻撃の双方を非難し、報復の連鎖を止めるよう求めた。国連安保理会合で紹介された両国の書簡によれば、イランは自国領から無人機、巡航ミサイル、弾道ミサイルを発射した。影響の評価や法的正当化について両国の説明は対立するが、国家が自国名義で相手国領内を攻撃した事実は、それまでの曖昧さを狭めた。
同年10月にも直接応酬が繰り返された。国連安保理の会合記録は、イランが10月にイスラエルへミサイル攻撃を行い、イスラエルが10月25日にイランの軍事目標を空爆したと整理している。ここで重要なのは、個々の攻撃をどちらが正当化できるかとは別に、「次も相手国が直接攻撃する」という予測が双方の作戦判断に組み込まれたことだ。
これは、公然戦争への移行を2024年の一事件だけで説明するという意味ではない。直接攻撃が反復されると、危機のたびに代理勢力を介する時間、外交で止める時間、相手の意図を確認する時間が短くなる。2024年は、長年の影の戦争から国家間の直接交戦へ移る前例が定着した年と位置付けられる。
2. 確認できる事実: 2025年6月、核施設を含む攻撃が12日間続いた

2025年6月13日、イスラエルはイラン国内の核関連施設、軍事拠点などへの攻撃を開始した。国連安保理の緊急会合で、IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、ナタンズの地上施設と電力設備が破壊された一方、当初の確認では施設外の住民や環境に放射線影響を示す兆候はなかったと報告した。国連は同日、イランによる無人機の反撃も報告し、外交交渉の継続と拡大回避を求めた。
IAEAのGOV/2025/50は、攻撃が6月13日から24日まで続き、途中から米国も参加したと記録している。IAEAは安全上の理由から現地での検認・監視活動を停止し、査察官を撤収した。その後、イランはIAEAとの協力を停止する法律を施行したため、核物質の計量報告や施設へのアクセスが途切れた。
この点は丁寧に分ける必要がある。IAEAが確認するのは、核物質、施設、査察、保障措置の状態であり、各国指導者の意図を断定する機関ではない。査察が難しくなったことは不確実性を増すが、それだけで特定の軍事意図を証明するわけではない。6月24日に停戦が発表されても、核施設の状態と検証の空白は次の危機の材料として残った。
3. 確認できる事実: 2026年の戦闘は周辺国とホルムズ海峡へ広がった

2026年2月末、米国とイスラエルはイランへの大規模攻撃を開始し、イランはイスラエルに加えて湾岸諸国の米軍関連目標などへ反撃した。国連事務総長は、米国とイスラエルによる対イラン攻撃、イランによる地域への報復の双方を非難し、即時の戦闘停止と交渉を求めた。国連の説明でも、攻撃はイラン、イスラエル、湾岸諸国、レバノンなどへ波及し、単純な二国間戦争の範囲を超えた。
3月11日の国連安保理決議2817は、イランによる湾岸諸国への攻撃を非難し、ホルムズ海峡の閉鎖、妨害、国際航行への干渉を直ちにやめるよう要求した。この決議は、戦争の影響が軍事目標だけでなく、民間船舶、船員、エネルギー供給、世界経済へ広がったことを示す一次資料でもある。
【2026-07-30更新】2026年6月には米国とイランの間で戦闘停止に関する覚書が発表されたが、国連は完全な停戦、航行の権利と自由の回復、核問題に関する本格交渉が必要だと指摘した。これは初版公開後の動きである。したがって「覚書が出たから原因が消えた」とは読めない。公然戦争へ至らせた安全保障上の不信と検証の空白は、外交的な枠組みが実行されるまで残る。
4. 当事国の主張と分析を分ける: 原因は一つではない
イスラエル政府は、イランの核・弾道ミサイル能力を「差し迫った存立上の脅威」と位置付け、2025年と2026年の攻撃を必要な防衛措置だと主張してきた。イラン政府は、米国とイスラエルの攻撃を主権と国際法への違反とし、自国の反撃を自衛として説明している。これらは各政府の公式見解であり、そのまま中立的な事実認定として扱うことはできない。
一次資料から確認できる範囲で言えば、戦争への移行を促した要素は少なくとも四つある。核計画と査察をめぐる不信、レバノン・シリア・イラク・イエメンなどにまたがる代理勢力と同盟網、2024年以降に積み重なった直接攻撃の前例、そして「相手に先に動かれる前に攻撃した方が安全だ」という先制志向である。
Sekai Watchの分析では、最も危険なのは四要素が互いを強める循環だ。査察が弱まると相手の能力に関する最悪想定が強まり、先制攻撃の誘因が増す。直接攻撃が増えると代理勢力や周辺国も巻き込まれ、航路やエネルギー施設が標的になる。経済的打撃が広がると、短期停戦を急ぐ一方で、根本問題を先送りする圧力も生まれる。単一の宗教対立や一人の指導者だけでは、この循環を説明できない。
5. 日本にとっての意味: 核不拡散、邦人保護、エネルギーを一緒に見る
日本政府は2025年6月、外交交渉が続く中でイスラエルがイランの核関連施設などを攻撃したことを強く非難し、イランの反撃を含むエスカレーションの停止を求めた。同時に、邦人退避と中東地域の安定、イランの核兵器保有阻止を政策課題として掲げた。日本の立場は、どちらか一方の軍事説明を採用するだけでは足りず、核不拡散と武力行使の抑制を同時に追う必要がある。
さらに2026年の戦闘はホルムズ海峡の航行を実際に妨げた。日本は原油の9割超、LNGの1割強を中東に依存しているため、攻撃が油田に届かなくても、船員の安全、タンカー保険、船腹、港湾、輸送日数を通じて調達費が上がる。中東の軍事情勢は、日本ではガソリン、電気・ガス、化学原料、海運費の問題へ変換される。
今後見るべきなのは、停戦発表の有無だけではない。IAEA査察がどこまで再開するか、核物質と施設の状態を検証できるか、イスラエルとイランが直接攻撃を控える仕組みを持てるか、周辺国と民間船舶への攻撃が止まるかである。この四点が改善しなければ、公然戦争を生んだ構造は残ったままだ。
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主な出典
- 国連: イランによるイスラエル攻撃を受けた安保理会合での事務総長発言(2024-04-14)
- 国連安保理: 2024年10月のイスラエル・イラン直接攻撃を扱った会合(2024-10-28)
- 国連安保理: イスラエルによるイラン空爆後の緊急会合(2025-06-13)
- IAEA: NPT Safeguards Agreement with the Islamic Republic of Iran, GOV/2025/50
- 国連: 2026年3月のイラン戦争と地域への拡大に関する事務総長報道官説明
- 国連: 完全停戦、航行の自由、核交渉を求めた事務総長発言(2026-06-10)
- 国連安保理決議2817(2026)
- 外務省: イスラエルによるイラン攻撃を受けた岩屋外相声明(2025-06-13)
- 外務省: 2026年3月のイラン情勢と日本の対応に関する外相会見
出典に関する注記
- 国連安保理の会合ページには、国連職員による確認情報と、当事国代表が述べた主張の両方が含まれる。記事では当事国の主張を事実認定と分けて記述した。
- IAEA資料は核物質、施設、査察、保障措置の技術的状態を確認するために用い、各国指導者の意図や武力行使の合法性を判断する根拠にはしていない。
- 2026年の戦闘停止に関する覚書は公表時点の外交的進展であり、完全な履行や恒久和平を意味するものとしては扱っていない。
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