Priority cluster
LNG・ホルムズ・サハリンを続けて読む
エネルギー輸入の詰まり方を、海峡、ロシアLNG、豪州代替調達に分けて追えます。
要旨
- 【2026-07-30更新】2026年4月8日の初版を残し、その後に確認された6月から7月の航行・船員安全情報を追記した。公開後の出来事は本文でも更新情報として区別している。
- EIAによると、2025年上期にホルムズ海峡を通過した石油は日量2,090万バレルで、世界の石油系液体消費の約2割、海上輸送される石油の約4分の1に相当した。
- 同じ期間に世界のLNG貿易の2割超が海峡を通過した。原油・コンデンセートの89%はアジア向けで、中国、インド、日本、韓国の4か国が全体の74%を占めた。
- サウジアラビアとUAEの主要迂回パイプライン能力は合計日量約470万バレルで、平時の海峡通過量の一部しか置き換えられない。
- 2026年の混乱は、価格を動かすのが物理的な供給停止だけではないことを示した。船員の安全、機雷、保険、待機船、港湾、航行保証が回復しなければ、海峡が名目上開いても物流は平時に戻らない。
【2026-07-30更新】この記事は2026年4月8日に公開した。初版が示した平時の流量、迂回能力、2026年4月初めまでの航行状況は維持し、公開後に確認された6月から7月の航行・船員安全情報だけを更新情報として追記している。
ホルムズ海峡は、イランとオマーンの間にあるペルシャ湾の出口だ。狭い水路だが、ペルシャ湾岸の産油・産ガス国と世界市場を結ぶため、世界最大級のタンカーとLNG船が通る。地図上の幅より重要なのは、代わりの輸送能力が限られていることである。
2026年には、商船への攻撃、機雷の危険、船舶の滞留が現実の問題になった。国連安保理は国際航行への妨害を非難し、IMOは船員の安全保証がない状態での通航を繰り返し警告した。この経験から分かるのは、ホルムズを「開いているか、閉じているか」の二択で見ると遅いということだ。流量、航行の安全、保険、港湾と船腹を一緒に見なければ、世界と日本の価格への影響は読めない。
1. 平時の規模: 石油2,090万バレル、LNG貿易の2割超

米エネルギー情報局(EIA)の最新の世界チョークポイント分析によると、2025年上期にホルムズ海峡を通過した石油は日量平均2,090万バレルだった。これは世界の石油系液体消費の約20%、海上輸送される石油の約25%に相当する。内訳は原油・コンデンセートが1,470万バレル、石油製品が610万バレルである。
LNGでも集中度は高い。2025年上期に海峡を通過したLNGは日量114億立方フィートで、世界のLNG貿易の20%超だった。主な供給源はカタールである。2024年のEIA分析では、ホルムズを通るLNGの83%がアジア市場へ向かった。
需要地の偏りも日本に関係する。2025年上期、海峡を通る原油・コンデンセートの89%がアジア向けで、中国、インド、日本、韓国が合計74%を占めた。したがってホルムズの混乱は、中東だけの輸送問題ではなく、アジアの買い手が同時に代替貨物と船を探す競争になる。
2. 価格は船が完全に止まる前から動く

EIAは、主要チョークポイントが一時的にでも遮断されると、供給遅延と輸送費上昇を通じて世界のエネルギー価格を押し上げ得ると説明している。市場参加者は、実際に失われた原油量だけでなく、将来届かなくなる可能性を先に価格へ織り込む。そのため、海峡を通る船がゼロになる前でも、軍事的緊張や攻撃情報で価格は動く。
実務では、船員を危険海域へ送れるか、戦争危険保険を引き受けてもらえるか、保険料と用船料はいくらか、港で積み出せるか、通航後に船を次の航海へ回せるかが問題になる。どれか一つが詰まれば、貨物が油田やLNG基地に存在していても、買い手へ届くまでの時間と費用は増える。
ここから先は一次資料に基づくSekai Watchの分析である。価格への影響は「失われた生産量」だけで測れない。輸送の不確実性が高いと、買い手は在庫を厚くし、売り手はリスクを上乗せし、船会社は危険な航海を避ける。量、時間、保険、期待の四つが同時に変わるため、現物供給が続いていても先物価格やスポット価格は上がり得る。
3. 迂回パイプラインは重要だが、全量の代替にはならない

サウジアラビアにはペルシャ湾岸から紅海側へ送る東西パイプライン、UAEにはアブダビからオマーン湾岸のフジャイラへ送るパイプラインがある。EIAは、両者を合わせたホルムズ迂回能力を日量約470万バレルと見積もっている。これは危機時の重要な緩衝材だが、2025年上期の海峡通過量2,090万バレルと比べれば一部にすぎない。
しかも公称能力と、ある日に追加で使える余力は同じではない。パイプラインに接続できる油田、油種、貯蔵タンク、積み出し港、すでに利用中の量によって実際の追加輸送は変わる。LNGについても、カタールから海峡外へ大量に迂回できる同等のパイプラインはない。
したがって「迂回路があるから影響は小さい」という結論も、「海峡が乱れれば全量が直ちに消える」という結論も正確ではない。確認すべきなのは、海峡を通れない量、パイプラインの空き能力、積み出し港の稼働、代替貨物を運ぶタンカーの確保状況である。
4. 2026年が示した現実: 「開通」と「安全な通常航行」は違う
2026年3月、国連安保理決議2817は、ホルムズ海峡を閉鎖、妨害、または国際航行へ干渉する行為や威嚇を非難し、航行の権利と自由を尊重するよう求めた。IMOも商船への攻撃を非難し、船員の安全と国際的に調整された航行枠組みを優先するよう要請した。
【2026-07-30更新】初版公開後も、混乱は停戦や開通の発表だけでは終わらなかった。IMOの集計では、6月23日から26日の避難運航で136隻、推計2,900人の船員がペルシャ湾外へ移動したが、その後の攻撃で計画は停止された。7月8日にもIMOは複数の商船への新たな攻撃を非難し、7月13日のIMO理事会は、差別なく妨げられない通過と、持続的に通常航行へ戻す仕組みが必要だと改めて確認した。
この時系列が示すのは、法的に通航権があり、航路が名目上開いていても、船員と船会社が安全に使えるとは限らないことだ。機雷除去、航行警報、船員の交代、保険、港湾混雑、攻撃停止の保証までそろって初めて、物流は平時へ近づく。価格を見る際も「開いた」という一語ではなく、実際の通航量と安全条件を確認する必要がある。
5. 日本への影響: 原油とLNGでは弱点が違う
資源エネルギー庁は、日本の原油輸入の中東依存度が9割を超える一方、LNGの中東依存度は約1割だと説明している。原油では中東への集中そのものが弱点になる。LNGでは中東からの直接輸入比率が原油より低くても、世界のスポット貨物をアジアの買い手が奪い合えば、日本の調達価格や電力・ガス会社の費用に波及する。
日本には国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄があり、資源エネルギー庁は2026年2月時点で約8か月分の石油備蓄があるとしている。備蓄は物理的な供給途絶に耐える時間を延ばすが、世界価格、保険料、運賃の上昇を消す仕組みではない。また、石油備蓄をLNGの代わりにそのまま使えるわけでもない。
家計と企業への伝わり方にも時間差がある。まず原油先物、LNGスポット、タンカー運賃、為替が動き、その後に輸入価格、卸価格、燃料・電力・化学製品の価格へ波及する。日本にとって重要なのは、危機が起きた瞬間の品切れだけでなく、高い物流費が数か月残る可能性を見込むことである。
6. ホルムズ海峡ニュースで確認する六つの指標
第一は実際の通航隻数と石油・LNGの積み出し量。第二はIMOや沿岸国が出す航行警報と安全保証。第三は戦争危険保険料とタンカー用船料。第四はサウジアラビアとUAEの迂回パイプライン利用量。第五は日本の原油在庫、LNG在庫、備蓄放出方針。第六は日本向け貨物の到着遅延である。
この六つを追えば、政治家の「開通した」「閉鎖した」という発言だけに振り回されにくくなる。通航隻数が戻っても保険料が高ければコストは残る。原油が流れてもLNG船が減れば電力・ガス市場は別に動く。備蓄が十分でも、長期化すれば補充条件が問題になる。
ホルムズ海峡が世界の価格を揺らす理由は、単に狭いからではない。大量のエネルギー、限られた代替能力、船員の安全、保険と船腹、アジアの需要が一か所で結び付いているからだ。日本の読者は、軍事ニュースをエネルギー量だけでなく、物流が平時へ戻る条件まで追って読む必要がある。
関連して読みたい記事
主な出典
- EIA: World Oil Transit Chokepoints(2025年上期のホルムズ通過量)
- EIA: 世界のLNG貿易の約5分の1がホルムズ海峡を通過(2025-06-24)
- 国連安保理決議2817(2026)
- IMO: ホルムズ海峡と中東の航行・船員安全情報
- IMO理事会: 重要航路の保護と通常航行への持続的回復(2026-07-13)
- 資源エネルギー庁: 中東情勢を踏まえた石油・関連製品等に関する対応
- 外務省: 日本関係船舶のホルムズ海峡通過について(2026-04-29)
出典に関する注記
- EIAの流量は2025年上期の平時に近い推計値であり、2026年の攻撃後の実通航量を示すものではない。
- IMOの避難船・船員数は掲載ページの更新時点における集計であり、通常の商業運航が全面回復したことを意味しない。
- 資源エネルギー庁の約8か月分という石油備蓄は2026年2月時点の説明で、LNG在庫や価格上昇への耐性と同じ指標ではない。
Next to read
Reader notes
コメント
名前は任意です。空欄の場合は「だれでもない観察者」として表示されます。
投稿内容は編集部の確認後に表示されます。