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LNG・ホルムズ・サハリンを続けて読む

エネルギー輸入の詰まり方を、海峡、ロシアLNG、豪州代替調達に分けて追えます。

要旨

  • 報道によると、5月10日以降、主にイラク原油を積んだVLCC級タンカー4隻がホルムズ海峡を出た。これは日量200万バレルに近いペースとされる。
  • ただし、戦争前はさまざまなサイズのタンカーが1日20隻ほど通航していたという比較が必要で、数隻の出航だけで通常化とは言えない。
  • 日本にとっては、ホルムズを出た船の数だけでなく、日本関係タンカー、船舶保険、迂回・無線停止航行、国内製油所稼働率、備蓄の残りを分けて見る局面が続く。

ホルムズ海峡から出る原油タンカーが増え始めたという報道は、日本にとって「危機が終わりつつある」サインなのか。結論から言えば、限定的な安心材料ではあるが、日本の供給リスクが解消したと見るのは早い。

The Japan Times/Bloombergは、5月10日以降に制裁対象外の原油を積んだVLCC級タンカー4隻がホルムズ海峡を出たと報じた。4隻はいずれもおおむね200万バレル級の原油を積んでおり、日量に換算すると200万バレルに近い流れになる。一方で、戦争前は大小さまざまなタンカーが1日20隻ほど通っていたとされる。

したがって本稿では、ホルムズの原油フロー、タンカー通過、船舶保険、日本関係タンカー、製油所稼働率を分けて読む。Sekai Watchの前回記事で扱った製油所稼働率の回復は背景にとどめ、今回は実際にホルムズを出る船が日本の安心材料になるかを見ていく。

1. まず答え: ホルムズの原油フロー回復は安心材料だが、危機終了ではない

Hormuz tanker flow insurance and refinery operations scene panel 1

今回のニュースで読者が最初に押さえるべき点は、船が動き始めたこと自体は重要だが、それは通常化と同じではないということだ。The Japan Times/Bloombergは、5月10日以降、制裁対象外の原油を積んだVLCC級タンカー4隻がホルムズ海峡を出たと報じた。これは、滞っていた原油輸送の一部が戻り始めたことを示す。

ただし、比較対象が重要である。報道では、戦争前にはさまざまなサイズのタンカーが1日20隻ほど通っていたとされる。4隻のVLCCが出たことは、市場にとって限定的な安心材料になりうるが、平時の流れへ戻ったことを意味しない。

日本にとっての結論も同じだ。原油がまったく動かない局面よりは良い。しかし、日本向けの供給が安定したかどうかは、ホルムズを出た総数、日本関係船の通過、船舶保険、迂回ルート、国内製油所で処理できる原油の種類まで見なければ判断できない。

表1 ホルムズ原油フロー回復で確認できることと、まだ言えないこと
論点 確認できること まだ言えないこと
VLCC4隻の出航 5月10日以降、制裁対象外の原油を積んだ大型タンカーの出口フローが確認された ホルムズ通航が平時並みに戻ったとは言えない
日量換算 報道では日量200万バレルに近いペースと整理されている 日本の在庫日数や小売価格へ直結させることはできない
日本関係タンカー ENEOS系フリートに属するタンカーの通過が別記事で報じられた 日本向け全体の航行リスクが消えたとは言えない
保険と航行 一部の船が動いている 船舶保険料や無線停止航行のリスクが通常化したとは限らない

The Japan Times/Bloombergの報道をもとに整理。船の通過は重要な事実だが、供給安定の全体像とは分けて読む必要がある。

2. 何が動いたのか: 主にイラク原油を積んだVLCC4隻が5月10日以降に出た

Hormuz tanker flow insurance and refinery operations scene panel 2

The Japan Times/Bloombergが伝えた中心事実は、5月10日以降に制裁対象外の原油を積んだ4隻のVLCC級タンカーがホルムズ海峡を出たことである。VLCCは Very Large Crude Carrier の略で、一般に約200万バレル規模の原油を運ぶ大型タンカーを指す。

報道では、4隻が運んだ原油は主にイラク産とされる。ここで重要なのは、制裁対象外の原油が動いている点だ。ホルムズ危機では、地理的な通航リスクだけでなく、原油が制裁対象かどうか、荷主や関係企業が制裁・保険上のリスクをどう見られるかも、輸送の可否に関わる。

このため、単に『タンカーが増えた』ではなく、『どの原油を積んだ、どの規模の船が、どの条件で出たのか』を見る必要がある。日本の元売りや製油所にとっても、原油の種類、品質、到着時期、契約条件が違えば、国内供給への意味は変わる。

3. 比較すべきは戦争前の通航量と船舶保険リスクだ

Hormuz tanker flow insurance and refinery operations scene panel 3

今回の4隻を過大評価しないためには、戦争前の通航量と比べる必要がある。The Japan Times/Bloombergは、戦争前にはさまざまなサイズのタンカーが1日20隻ほど通っていたと伝えている。VLCC4隻の出航は目立つが、平時の多様な船種と本数の流れとはまだ距離がある。

もう一つの比較軸は船舶保険である。船が通れることと、保険料や保険条件が平時に戻ることは別問題だ。危険海域と見なされる状態が続けば、保険料、用船料、航海日数、無線を切った航行のリスクが輸送コストとして残る。

この差は日本にも響く。原油そのものが確保できても、保険料と運賃が上がれば、元売り、製油所、物流、最終的な燃料価格に圧力がかかる。したがって、見るべきなのは『船が何隻出たか』だけではなく、『通常の条件で航行できているか』である。

表2 ホルムズ通航を読むときの3つの比較軸
比較軸 見る理由 日本への読み方
戦争前の通航量 数隻の出航が平時に近いのか、限定的なのかを判断するため 供給回復を読む基準になる
制裁対象かどうか 地理的には通れても、金融・保険・契約面で扱えない原油があるため 日本企業が扱える原油かどうかに関わる
船舶保険と航行条件 通過できても保険料や航海日数が重くなる場合があるため 輸入コストと到着遅れのリスクを見る材料になる

ホルムズのリスクは、地図上の通過可否だけでは読めない。原油の法的扱い、保険、船主の判断が重なる。

4. 日本関係タンカーの通過は補助証拠だが、日本向け安定供給の証明ではない

日本との接点では、The Japan Times/Bloombergが5月14日、ENEOS Holdingsのフリートに属する Eneos Endeavor がペルシャ湾内からオマーン湾側に出たと報じた。記事では、同船が一時位置情報の発信を止めた後、マスカット北方で発信を再開したとされ、ホルムズ海峡を通過した可能性が示された。

この動きは、日本関係船もまったく動けない状態ではないことを示す補助証拠になる。報道では、Eneos Endeavor は中東戦争が始まって以降、ホルムズの要衝を越えた日本所有のVLCCとしては2隻目になる可能性があるとされる。

ただし、これを日本向け安定供給の証明と読むのは早い。ENEOS側は安全上の理由から個別船舶の運航状況を開示しないと説明したと報じられている。安全上の理由で位置情報を止める航行が選ばれる局面そのものが、まだ通常の輸送環境ではないことを示している。

5. 製油所稼働率の回復とは別に、ホルムズの出口フローを見る必要がある

Sekai Watchの前回記事では、日本の製油所稼働率が70%台へ戻った意味を扱った。Reuters配信の報道では、石油連盟データをもとに、5月2日までの週に77.3%、5月9日までの週に73.3%だったとされ、備蓄活用や代替原油の調達が製油所の運転に表れ始めたと整理した。

今回の記事で見ているのは、その手前にある海上輸送の実務である。製油所稼働率が回復しても、ホルムズを出るタンカーが限られ、保険料が高く、到着時期が読みにくいなら、国内の処理量は再び揺れやすい。逆に、ホルムズの出口フローが増えても、日本の製油所で処理しにくい原油であれば、国内供給への寄与は限定される。

したがって、日本向けには二つの指標をつなげて見る必要がある。第一に、ホルムズから出る制裁対象外の原油を積んだタンカーの隻数と輸送量。第二に、その原油が日本の製油所稼働、備蓄消費、石油製品の出荷へどうつながるかである。どちらか一方だけでは、危機の収まり具合を読み切れない。

6. 次に見るべき点: 5月後半の本数、保険料、政府備蓄、原油価格

5月後半に見るべき第一の指標は、VLCC級だけでなく、中小型タンカーも含めた通航本数である。4隻の出航が一時的な例外なのか、継続的な出口フローなのかは、数日では判断しにくい。戦争前の通航量に近づくか、限定的な船だけが通れる状態にとどまるかが焦点になる。

第二に、船舶保険と運賃である。保険料が高止まりすれば、原油が動いても輸入コストは下がりにくい。第三に、日本の製油所稼働率と備蓄利用である。国内処理が続くか、備蓄消費が速まるかは、家計と企業への波及を読むうえで重要になる。

第四に、原油価格である。ただし、原油価格だけで安心も不安も判断しないほうがよい。価格は市場の期待を反映するが、船舶動静、保険、到着時期、製油所での処理まで含めて初めて、日本の供給リスクがどこまで下がったかが見えてくる。

7. Sekai Watch Insight: 日本は『船が通った』と『供給が安定した』を分けるべきだ

ここからはSekai Watchの見立てである。今回のホルムズ原油フロー回復は、危機対応がまったく機能していないという見方を修正する材料になる。大型タンカーが実際に出ている以上、市場が最悪シナリオだけを織り込む局面ではなくなりつつある。

一方で、日本に必要なのは『ホルムズ危機終了』という見出しではない。必要なのは、船が出た事実、保険と航行の条件、日本関係船の動き、製油所で処理できる原油、備蓄の残りを別々に見る読み方である。どれか一つが改善しても、他の部分に制約が残れば、日本の供給リスクは残る。

ホルムズ危機が長引くほど、日本側のリスク評価で弱点になりやすいのは、原油価格だけを見てしまうことだ。これからの焦点は、『何ドルか』ではなく、『どの原油が、どの船で、どの保険条件で、どの製油所に届くのか』である。4隻の通過は、その実務を追うための入口であって、安心宣言ではない。

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